最近ふとあることを思い出しました。
それは、僕のジャズに対する考え方を根本的に変えたリハーサルについてです。
とある単発のコンサートを行うことになり、僕はメンバーを集めてリハーサルをすることになりました。
全員日本人です。
そのときの僕は、リハもセッションみたいなものだと考えており、普通に楽しみながらリハを進行していました。
すると後日、そのメンバーのうちの一人(一番仲良かった子)に、他のメンバーから苦情出てたよと言われてびっくりしました。
要約すると、
・リハなんだからいちいちソロを弾ききらなくてもいい
・要点だけ確認できればこっちも本番ちゃんと合わせる
・こちらの時間もあるんだからさっさと終わらせて早く帰してほしい
僕は愕然とし、そのとき顔から血の気が引いていったのを今でも覚えています。
なるほど、確かに言っていることは一理あります。
そのときのリハーサルスペースは無料でしたが、わざわざ時間を作ってもらっているのだし、リハなんだから別にそこを楽しむ必要もなく、要点だけ押さえて大丈夫そうならさっさと終わるべきでしょう……
それになにより、「あいつのバンド入るとリハがめんどくさいからもうやりたくない」なんて思われてしまったら最悪です。
この件以降、僕は何かでリハをやるときは要点を絞り、必要な譜面を必ず人数分用意し、できるだけ短時間で終われるように気を付け、後年あるミュージシャンから「段取り八幡」というあだ名までつけられるほどになりました。
はい、これが僕にかかった呪いです。
もちろん僕はそれが呪いだと気づかず、むしろそうやって段取りよくリハを行い、全員が確認できたらさっさと終わるのが一人前のジャズミュージシャンの仕事だとずっと思っていました。
今考えればこんな仕事仕事したリハをやっているから本番が淡々としたものになっていたんだと思います。
これは僕だけではなく、ジャズミュージシャンなら誰しもがかかっている呪いです。
「いや、俺のバンドはリハは淡々としてるが本番が熱いぜ!」と思っている人、それはまた別の呪いにかかってますから……(ジャズから離れたらわかります)。
しかし、最近セロニアス・モンクの伝記を読んでいると、当時のミュージシャンがコンサートに際して入念にリハーサルを行っていた様子が生々しく描写されていて驚きました。
モンクはあるコンサートのリハで、1曲に1日かけることもあったとか(それはそれでメンバーから苦情が出たそうですが)。
それは極端にしても、モンクは自分の音楽がきちんとメンバーに理解されるまで何度も何度もリハを行っていたようです。
また、若手にあえて厳しく接したり、ベテランにも妥協しなかったとか。
リハーサルはそういう姿勢で臨むべきだと今は思います。
だって、自分の音楽をつくっていく時間なんですから、それを淡々と段取りだけこなしていると、メンバーも段取りとしか認識しないでしょう。
そして当然本番もそのような演奏になっていきます。
そういえばボストンでやっていたラテンバンドのリハは、何の計画性もなければ段取りもない、当時の僕からしてみれば全く意味のないようなものでしたが、その遊んでる感じがステージでも出ていたなあと今になって思えます。
ファンの人はその雰囲気が好きだったのでしょう。
音楽を真剣にやっている人は、リハーサルについても一度よく考えてみるべきでしょう。
結局、それがそのままステージで出ますからね。