以前から読んでみようと思っていたユルスナールの代表作「ハドリアヌス帝の回想」を途中まで読みました。
個人的に途中でやめた作品はレビューしたりはしないんですが、今回は特別。
本作はローマ皇帝ハドリアヌスが死の直前に人生を回想するという内容なんですが、ローマに全然詳しくない僕にとってはかなり苦痛を伴う読書でした。
ただ、ユルスナールは好きだし代表作なので何がいいのかぐらいは掴みたいと思って頑張って読んでいました。
そして半分ぐらいまで来たとき「あ、そうか!」と分かったのでもうそこでいいやとなりました。
では何が凄いのかというと、作品を読んでいて最初からずっと本当にハドリアヌスという人が回想している本だと1ミリも疑わなかったからです。
もちろん作者はユルスナールですが、本人が一度も、たった一言にさえ登場しない。
作品の中から完全に自分を消し去っているということです。
しかもそれを伝記や研究ではなく、小説でやっているというところが凄いです。
歴史小説で言うと司馬遼太郎なんて数ページに一回は必ず本人がしゃしゃり出てきて「ちなみにここで面白い話があるんだが、主題ではないので述べない」とか謎の自慢をしたりするので、いまだに文学としては評価されないんでしょうね。
面白いけど。
そういえば本作より前に書いた「とどめの一撃」では若干ユルスナールが顔を出す瞬間もありましたが、そこからさらに論理や文体を磨いて本作になったのでしょう。
それが分かったので「じゃ、もういいか」と残りは断念しました。
だってローマ全然分からんし、ユルスナールのことなので最後の最後で疲れてひょっこり自分が出る……なんてこともないだろうし。
ということで、途中までで十分と判断しました。
世界的評価を得た本書が日本で全然認知されていないのは、日本人のローマ音痴のせいでしょう。
僕もローマ時代と聞くと数名の皇帝の名前とテルマエロマエしか分かりません。
いずれハドリアヌス帝の治世だけでも勉強してから再度読み直したいと思います。
余談ですが、僕は女性の文学作品はどちらかというと苦手で、せいぜい綿谷りさぐらいしか読みませんが、ユルスナールは女女していなくてとても読み応えがあります。
人物的にも貴族の末裔だったり、生後すぐ母親を亡くし、父親も早くに亡くしてアメリカで彼女と同居したり(バイセクシャルだったらしい)、旅から旅に生きたりと面白いです。
日本びいきだったのも嬉しい。
興味ある人はどうぞ。