八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

【横浜ギター教室】講師八幡謙介が横浜でのギターレッスンや音楽について綴るブログ。ジャズ多め。

髪結いの亭主 レビュー(ネタバレあり)

サウンドハウス

公式動画

www.youtube.com

髪結いの亭主 - Wikipedia

 

 

公開

1990年

監督

パトリス・ルコント

キャスト

アントワーヌ ジャン・ロシュフォール

マチルド アンナ・ガリエナ

 

 

感想

ネタバレしています。ご注意ください。

 

 

 

 

 

 

主人公のアントワーヌは幼少期に通っていた理髪店の女店主で性に目覚める。

その女性が自殺したことで女美容師への憧れが決定的となり、アントワーヌはなんとしてでも髪結いの亭主となることを心に誓い、中年になって偶然見かけたマチルドに一目惚れ、初対面でプロポーズし、受け入れられ、小さな理髪店での奇妙な二人暮らしが始まる。

フランス映画らしい日常感と、陰にこもっていない、しかしアメリカほど陽気でもない独特のエロスが漂うなんとも奇妙な作品。

ちなみに「髪結いの亭主」とは「妻に養われる夫」のこと。

よく言えば専業主夫、悪く言えばヒモ。

男が目指すべきポジションではない。

だから子供の頃アントワーヌが父に「将来髪結いの亭主になる」と宣言するとビンタされた。

 

 

そもそも主人公アントワーヌの性格からして結構ヤバい。

ヒモ気質で美容師への執着が強く、妄想癖があり、初対面でプロポーズする空気の読めなさ。

プロポーズ後はマチルダの家の窓を見ながら一晩中過ごして妄想にふけるストーカー。

そして結婚後は働かずに妻の理髪店で一日ダラダラ、そしてしょっちゅう妻の仕事をセクハラで邪魔する変態夫……

だが、これがなぜか陰にこもらずとても甘美に美しく見えるから不思議。

ジャン・ロシュフォールも決してイケメンではないのだが、気持ち悪くはない。

 

そして美容師のマチルド役、アンナ・ガリエナのなんともいえない柔らかなエロさ。

いかにもといったセクシーさはないのだが、フェロモンがムンムンしていてヤバい。

フランス語の響きも相まって、台詞の一言一言がなんかエロく聞こえてくるから不思議。

 

本作は官能的な作品だが、久々に観るとギャグのような設定がちりばめられていて、かなり笑えた。

アントワーヌが夢叶えて髪結いの亭主となったとき、父親が心臓発作を起こして死んだことを淡々とモノローグで語っていたのがツボだった。

あと、赤い海パンも何のメタファーか知らないが謎の面白さがあった。

 

 

さて、そんな二人の生活だが、マチルドの突然の自殺であっけなく幕を閉じる。

これ自体はフランス映画によくある展開なので初見でも特に驚きはしなかった。

夫に最も愛されている状態で死にたいという心理も理解できる。

問題はアントワーヌの方。

理想の女美容師と結婚し、念願の髪結いの亭主となり愛と官能に溢れた生活が一晩で壊れたというのに、なぜか泣きも悲しみもせず、妻の帰ってこない理髪店でいつも通りの日常を過ごそうとする。

これがずっと理解できなかったのだが、改めて観ると幼少期に恋した美容師の自殺が伏線になっていると分かった。

アントワーヌの初恋の美容師は、「髪結いの亭主」になるという彼の妄想を果たすはるか前に死んだ。

しかし、そのことで彼は現実に引き戻されることはなく、むしろ妄想をより強固にさせた。

そしてアントワーヌはマチルドと結婚し、その妄想を現実のものにしたのだが、またもや理想の女性は死んでしまった。

ではアントワーヌはどうなるか?

もちろん、彼の妄想をさらに強固にさせるだろう。

恐らく彼の妄想の中ではマチルドは死んでいない(遺体の確認はしただろうが)。

ちょっと買い物に行ってまだ帰ってきてないだけだ。

だから悲しみもせず、ただいつものように理髪店で妻を待っているのだ。

こちら側からすれば不可解極まりないが、アントワーヌからすればごく自然で当たり前のことなのである。

そして「じゃあこの人これからどうすんの?」というリアリズムを一切排除しているところにこの作品の最大の美しさがある気がする。

 

 

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