「魔道祖師」という作品をご存じでしょうか?
墨香銅臭 (モーシャントンシウ)さんが中国のWEB小説で発表した作品で、そこから書籍、ドラマ、アニメとメディア展開され、アジア中心に大ブームとなって、現在は日本でアニメの完結編が放送中です。
動画など詳細は下記参照。
ただ、内容の難しさと、日本では最初BLとして紹介されたからか、盛り上がり方がやや局所的で社会現象になるほどのブームにはなりませんでした。
メディアでもそこまで取り上げられていないようです。
実際BL要素はかなり少ないですし、そっちの趣味が全くない僕でも十分楽しめます。
ではそんな「魔道祖師」の何が凄いのか?
まず、とにかく世界が広い。
良い意味で大陸的というか、広大な世界の広がりを感じさせる作品です。
日本の物語はともすれば狭く狭くなりがちですが、広大な世界を持つ物語に触れると自分の気持ちも大きくなった感じがします。
本作は登場人物たちが仙術を操って闘う中華ファンタジーです。
なんだかんだで日本人が大好きなやつですね。
死者を操る「鬼道」、そのための法具「陰虎符(いんこふ)」、人形に魂を吹き込み使役する「点睛召将術」、死者の魂から情報を拾う「問霊」、剣に乗って空を飛ぶ「御剣」などなど、ワクワクするような仙術が書き切れないほど登場します。
そうした仙術の表現はアニメが最も得意とするところですね。
なので僕はアニメをおすすめします。
アニメ「魔道祖師」はキャラクターの相関図、関係図がかなり複雑で、ぼんやり観ていても覚えきれません。
日本の小説だと横溝正史に近いかもしれません。
ここはめんどくさいといえばめんどくさいんですが、それぞれのキャラがちゃんと人間臭くてなんか覚えたくなるんですよね。
仙門(仙術の流派)同士の関係性もあってさらに複雑さを増しています。
流派としては敵だけど個人としては友達みたいな。
「魔道祖師」は人間の描き方がハンパないです。
日本の漫画的なデフォルメともちょっと違うし、劇画的なリアリティでもない、フランス文学的な心理の掘り下げ方ともまた違う……独特な人間描写をします。
これが中華的なのかも知れませんが、中国文学はほとんで読んでこなかったので分かりません。
恐らく中国人特有のリアリズムと日本のアニメや漫画のデフォルメが出会った結果の化学反応なのでしょう。
「魔道祖師」最大の特徴は、恐らく悲劇にあるでしょう。
悲劇的な作品は誰でも接したことがあると思いますが、本作の悲劇はレベルが違います。
観ていて『なんでそんな悲しいことを……』と絶句してしまうほど究極の悲劇を何度も何度も出してくるので、呆然としてしまいます。
それもほんの些細な歯車があのときかみ合っていたら避けられていたのに……という絶妙な描き方をするので、歯がゆい思いがずっと心に残ってしまうのです。
これも日本の作品ではなかなか見られないので、中華的といっていいのでしょうか。
はっきりいって「魔道祖師」は難解でめんどくさいです。
中国名は名字、諱(いみな)、字(あざな)、号(ごう)と複数あり、名前覚えるのですら最初は苦労します。
関係性も複雑だし、政治劇もあり、おまけに技とか術もバンバン出てくるので何がなんだか分かりません。
現代アニメはそういった要素どんどん排除し、分かりやすく、覚えやすい物語や演出にシフトしてきているのですが、そんな中で「魔道祖師」のような難解な作品が中国発信で誕生し、国を超えて流行るという現象が面白いです。
子供の頃からこんな作品を観て育った中国人はどんな大人に育つのか……考えるとちょっと恐ろしいです。
一方日本では「鬼滅」のような手取足取りのアニメで育っていくので……その先はあんまり考えたくないですね。
どっかで書いたと思いますが、日本は既に物作りで負け、科学で負け、経済で負け、政治で負けて、近い将来究極のお家芸であるアニメですら中国に負けますよ。
現在継続中で「魔道祖師」と対等に渡り合える作品はせいぜい「機動戦士ガンダム 水星の魔女」か「進撃の巨人」ぐらいでしょう。
我々ができるのは「で、でも日本のアニメがあったからこれが生まれたんだろ?」と、数と歴史で虚勢を張るぐらいです。
それも乗り越えられるのは時間の問題でしょうね。
まあ僕は面白いアニメを観るだけですが。
そんな「魔道祖師」を観てみたい、でも難しそう……という方は僕のアニメブログに書いている解説をご参照ください。
これを片手にアニメを観ると理解が進むはずです。
アニメ『魔道祖師』公式 (@mdzsjp) / Twitter