先日購入した大友昇平氏の「平成聖母」、
毎日眺めていたら、だんだんこの作品の隠された構造や象徴が見えてきたので、解説してみます。
「平成聖母」は、一見するとギャルっぽいねーちゃんが平成のキャラを体に彫りまくってるだけに見えます。
しかし、よく見れば本作は上半身と下半身、右半身と左半身がそれぞれ相対する概念で構成されており、さらに体の中心に象徴的なモチーフが彫られています。
ざっくりまとめると、
-
上半身
ヒーロー、ヒロイン、正義
-
下半身
悪、敵、破壊
-
右半身
男性キャラ
-
左半身
女性キャラ
-
右手
混沌
-
左手
慈しみ
-
右足
米英キャラ、アメリカ的象徴
-
左足
日本のキャラ、日本的象徴
これらが本作の対比となります。
さらに、
-
体の中心
宗教をモチーフ、平和の象徴
このような構造となっています。
ではそれぞれを詳しく見ていきましょう。
まずはキャラクターから。

-
アンパンマン(それいけ!アンパンマン)
-
バズ(トイストーリー)
-
リュウ(ストリートファイター)
-
スタンリー・マーシュ(サウスパーク)
-
レゴ
-
バート・シンプソン(シンプソンズ)
-
ガンダム(機動戦士ガンダム)
-
ナルト(NARUTO)
-
スポンジボブ(スポンジボブ)
-
ミニオン(ミニオンズ)
-
マックイーン(カーズ)
本作を「平成生まれのキャラ大集結」と誤解している人もいますが、アンパンマンに代表されるように、平成以前からのキャラも多数彫られています。

-
神龍(ドラゴンボール)
-
ピカチュウ(ポケモン)
-
どーもくん?(これだけは正確にはわからない)
-
羊のショーン(羊のショーン)

-
エヴァンゲリオン初号機(新世紀エヴァンゲリオン)
-
スパイダーマン(スパイダーマン)
ポーズはミケランジェロ「アダムの創造」
-
カウズ(ブライアン・ドネリー)
-
カプセル
AKIRAに登場したドラッグ

右手で中心に向かってカプセルを放り投げているようにも見える。
エヴァ初号機の左手が虹の中で人の手になっている。

-
エルサ(アナと雪の女王)
-
ピーチ姫(スーパーマリオ)
-
サン(もののけ姫)
-
ブロッサム(パワーパフガールズ)
-
キュアハッピー(スマイルプリキュア)
-
泉こなた(らき☆すた)
-
フラワー(村上隆)
-
リラックマ
-
星のカービィ(星のカービィ)
-
ポー(テレタビーズ)
-
Baby-G
-
リスカ痕
本来手首内側にするものだが、構図上手の甲側にしたのだろう。
-
蓮
創造、再生の象徴
-
キリーク(手の甲の梵字)
戌・亥年、阿弥陀如来、千手観音などを象徴。天台宗、浄土真宗が扱う
-
指輪
デザインや文字が書いてあるけど読めない。薬指だけしてないので、未婚。

-
プリンセスセレスティア(マイリトルポニー)
-
星のキャラ(不明)
-
トトロ(となりのトトロ)
-
キティちゃん(ハローキティ)
-
ギズモ(グレムリン)

-
セーラームーン(美少女戦士セーラームーン)
-
アリエル(リトルマーメイド)

お腹をなで、慈しんでいる。

-
ワールドトレードセンター
911テロの対象
-
ミサイル
詳細不明
-
飛行機
恐らくテロに使われたもの
-
サノス(マーベル)
-
ジョーカー(バットマン)
-
ダースベイダー(スターウォーズ)
-
エージェントスミス(マトリックス)
-
ヴォルデモート(ハリーポッター)
-
デイビー・ジョーンズ(パイレーツ・オブ・カリビアン)

-
縄
絞首刑、死刑の象徴
-
原発
-
ミサイル
テポドン
-
津波
東日本大震災の象徴。北斎。
-
フリーザ(ドラゴンボール)
-
キラークイーン(ジョジョの奇妙な冒険第四部)
-
リューク(デスノート)

-
オリンピック
-
爆発(AKIRAのシーン)
ソドムの象徴か?
-
トランスフォーマー(トランスフォーマー)
-
笑い男(攻殻機動隊S.A.C.)

-
太極図
道教、儒教
-
月のマーク
月経を象徴
-
百合
聖母の象徴
-
天上天下唯我独尊
釈尊が生まれてすぐ言ったとされる。仏教の象徴。
-
虹
キリスト教における神との契約の象徴
-
鳩
平和の象徴
体の中心には宗教や平和、契約、聖母といった象徴を表す図や文言が彫られている。
-
右胸の神龍と左胸のプリンセスセレスティア
-
右胴体のエヴァと左胴体の月野うさぎ
-
右胴体のスパイダーマンと左胴体のアリエル
-
右足の911テロと左足の311津波
-
膣の爆発と子宮の鳩
-
右手と左手
これらは対比として描かれているように思えます。
男性/女性、空/海、平和/戦争、産む/壊す、慈愛/混沌などなど。
髪飾りはよく見ると「平」「成」と描かれています。
これまでで、
左=女性性、右=男性性
上=正義、下=悪
という対比が見えてきました。
さらに深読みすると、右手が破壊や混沌、左手が慈しみ、育てるといった象徴が見えてきます。
まず、お腹を確認しましょう。
鳩と虹が描かれています。
これは平和と契約の象徴です。
また、女性のお腹は新しい命を育むところなので、神との契約により新しい命を育む聖なる場であると読み解けます。
その場所に対する左右の手の動きを見てみましょう。
左手はお腹を慈しむように撫でています。
本作における左手は女性性の象徴であり、また阿弥陀如来を表す「キリーク」が彫られているところから、平和や命を慈しみ、育てているように見えます。
一方右手を見ると、お腹にカプセルを投げているようにも見えます。
カプセルは漫画「AKIRA」でドラッグとして登場します。
ドラッグは人や社会に破滅と混沌をもたらします。
本作における右手は男性性の象徴です。
つまり、この右手は神との契約や平和、新しい命に対し、あえて破滅や混沌をもたらしているようにも見えます。
では、女性が慈しみ、育て、男性がそれを破壊するという対立構造を作者は描いているのかというとそうではなく、あくまで一人の人間の中にある女性性と男性性の対立として描かれているところがポイントでしょう。
人間は平和を愛し、命を慈しむと同時に、自ら破滅や混沌をもたらす矛盾した生き物でもあります。
大友氏はそうした人間の二面性を表現したかったのかもしれません。
さて、個人的には本作の対立構造から、神道の匂いがします。
神道では、左がイザナミ(女性神)、右がイザナキ(男性神)の象徴とされます。
また、イザナミは水、イザナキは火を象徴します。
言霊学ではカミを火水と解き、この二つが結ぶことで神となるそうです。
さて、「平成聖母」の下半身を見てみましょう。
左足には津波が、右足にはビルの火災が描かれています。
これは偶然ではない気がします。
本作は間違いなく宗教的な象徴を学んだ上で描かれているので、恐らく神道における象徴も知っていたか勉強した上で取り込んだのでしょう。
知らんけど…
改めてこの女性に視線を見てみましょう。
自分のお腹を見ているようです。
本作でのお腹(子宮)は、平和と契約の象徴が描かれています。
それを中心として善悪、男(混沌)女(慈愛)といった対立する概念が描かれています。
この少女は、そうした対立概念を認識しつつ、それでもそれらをしっかりと腹に収めて平和を生んでいこうとしているように見えます。
本作を一目見たときに感じるたんなるポップアートを越えた迫力は、こうした背景から生まれるものである気がします。
アートって面白いですね。
いっこだけ気になる箇所があります。
それは爪です。
ここまでタトゥ彫ってる女の子が、爪を何も装飾してないというのはリアルじゃない気がします。
爪になにも付けない意味もイマイチ見えてこないので、ここは作者が男性だから気が付かなかったのかなという気がします。
でもこんだけ緻密な作品を描く作者ですから、やっぱり意味があるんでしょうか?
まあどっちでもいいんですが。