八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

上を見るか下を見るかではなく、大事なのは外を見ること


八幡謙介ギター教室in横浜

「人間は二種類しかいない、上を見て戦うか、下を見て満足するか」みたいな格言(?)があります。

前者が正しい人やあり方、後者は悪であり人として怠慢という意味で使われます。

一見正論風で力強く、ロマン主義的な甘いソースもふんだんにかかっていて、ついうっとりしてしまう人も多いと思います。

まあ僕もそんな時期がありました。

確かに上を見て努力している人は立派だし、美しいと思います。

一方、下を見て満足している人にはどこかがっかりしてしまいます。

ただ、今の僕にはどうしてもこれに疑問を持ってしまいます。

というのは、どう考えても視野が狭いとしか思えないからです。

上/下って何のこと?

まずこの上とか下というのが何のことかを一度ちゃんと考えてみましょう。

一言でいうと、ここで言う上とか下ってのは業界のことです。

音楽なら音楽業界、ギターならギター業界、その他スポーツ、ビジネス、YOUTUBE……と、ジャンルはなんでも構いません。

ギターなら、そこそこ弾けるようになって仕事にもなり、お金もそれなりに稼いでそれで食っていけている……、でもそこで満足せずにもっと技術やセンスを磨き、上のギタリスト、ミュージシャンを目指そう!ということでしょう。

ここに、決定的に欠けている視点があります。

上か下かは視野狭窄

上か下かという考え方には、「外」という視点がありません。

狭い狭い世界の順列しか見えていないので、それ以外の要素が絡んできたときに脆弱性を露呈します。

 

例えば、ある格闘技団体があるとしましょう。

誰もがそこで一番を目指して研鑽します。

努力の末チャンピオンになったとしましょう。

 

念願のチャンピオンになった!……それなのに全然人気が出ない、しかも自分より全然弱いやつがチヤホヤされている、なんで?俺が一番なのに?あいつは俺より弱いのに!!

 

よくある話ですよね。

これが正に上か下しか見えていない状態です。

一方で、業界での順列はそこそこ止まりだけどちゃんと「外」も見えているから人気がある、仕事が継続できているという人もいます。

もちろん、外ばかり見ていて順位が落ちてくればそれはそれで叩かれるでしょう。

いずれにしても、上か下かという視点しかないと、業界・団体での順位は上がっても社会全体の中で生き残るのは難しいということが分かると思います。

 

 

外からの視点を持とう

業界・団体で順位が上でも、その外=一般人からすればどうでもいいということはいくらでもあります。

特に明確な順位付けのない芸術やエンタメの世界では顕著です。

業界で評価されればそれでいいという人も中にはいるかもしれませんが、社会的に成功したい、社会に評価されたいと考えるなら「外」という視点は必須でしょう。

 

ギターの世界でいうと、速弾き世界一の称号はギター業界では立派な肩書きになりますが、世間からすれば何の価値もありません。

それでもそこを目指す人は、冒頭の格言もどきを信じているんでしょう。

一方、外からの視点を持っている人は、「そこじゃねーな…」と軌道修正できるはずです。

大した肩書きを持ってないはずなのに、なぜか長く生き残っている人は、きっと上か下か意外の第三の視点を持っているはずです。

僕もそうした視点でそれなりにやれています。

これから何者かを目指す人は、こうしたことをよくよく考えてみるべきでしょう。 

格言は疑うべし

余談ですが、冒頭のような一見魂を揺さぶるような、心に火をともすような格言に出会ったら、一度距離を置いて、そこに潜むロマン主義を徹底的に疑ってかかる必要があります。

なぜかというと、 ロマン主義は人を酔わせる作用があるからです。

冒頭の「上を見て戦うか、下を見て満足するか」に潜むロマン主義的味付けが、「外」というさして難しくもない視点を隠してしまうという作用を我々は既に知っています。

この程度の隠し味的なロマン主義のテイストで、現実に視野狭窄に陥り無駄な努力を払ってしまう人がいくらでもいるのです。

僕が一見虚無的な立場で救いのない現状認識や冷徹な批判を行うのは、そうしたロマン主義を警戒し、その危険性を啓蒙するためでもあります。

改めて考えると、平野啓一郎氏の影響が大きいですねえ…。

ロマン主義を警戒し、ニヒリズムを克服した先にある未来の人間精神を獲得するというのが平野文学の主題なので(「日蝕」から「かたちだけの愛」あたりまで一気に読むとわかります)。

ここ数年は影響を受けすぎないよう平野文学やご本人から離れていましたが、それでもどうやら自分の心の奥底にはしっかり影響が根ざしていたようです。

 

とにかく、うっとりするようなロマンティックな言葉や、心に火が着くような熱い格言には思いもよらない危険が潜んでいるので気を付けましょう。