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楽器を演奏するとき、プロはアマチュアより脳をたくさん使えているのか?


八幡謙介ギター教室in横浜

楽器を演奏する人、プロを目指す人は、一度はこういったことを考えたことがあると思います。

 

プロはアマチュアよりも演奏時に沢山の事を処理している。だからきっとプロは脳の容量(処理能力)が自分よりも高いんだ。だから自分もそうならなければプロになれない……

 

PCでいうと、プロはアマチュアよりもCPUの性能が高く、メモリの要領も多いということです。

結論から言うと、そんなことはありません。

人にもよりますが、セッションやバンド活動できるぐらいのアマチュアと、普通に仕事ができるプロで音楽に対する脳のスペックが劇的に違うということはありません。

 

PCで例えると、

 

アマチュア

 CPU:Core i5

 メモリ:8ギガ

 

プロ

 CPU:Core i7

 メモリ:10ギガ

 

これぐらいの違いしかありません。

CPUでいうと一世代上、メモリはほんのちょっと足したぐらいです。

もちろん中にはモンスター級の能力を持っている人もいますが。

あくまで脳の処理速度や要領で考えると、アマチュアとプロにはそこまで歴然とした差はないといっていいでしょう。

 

 

とはいえ、プロとアマチュアには歴然とした差があることも事実です。

短期間で膨大な楽曲を覚えたり、複雑なコードチェンジの曲を難なくアドリブで弾いたり、タイムやタッチなどを細かくコントロールしたり、技術や表現の幅が信じられないほど広かったり……

やっぱりプロはCPUもメモリも最高のものを積んだモンスターマシンなんじゃないの??

 

いえ違います。

からくりとしては、プロは演奏中余計なことをしたり考えたりしないから、スペックを有効活用できているというだけです。

ワープロソフトが使いたいのに、余計なプログラムを動かしていると無意味な負荷がかかり、作業に支障をきたします。

スペックを今必要な作業だけに使い、他を切っておけば、そこまでモンスターマシンでなくても高度な処理が可能となるのです。

では演奏中の余計なこととは? 

 

レッスンでもよく言いますが、演奏中に考える余計なことの代名詞は、「自分の音を聴いて反省する」です。

 

今のフレーズ失敗した…

あ、タイムがズレた…

ピッキングミスった!

こんな風に弾きたくなかったのに…

 

これ、全部無駄なことです。

なぜかというと、演奏中に反省したところでどうしようもないからです。

また、演奏中に反省するということは、「弾く」という作業に加え、「終わったことを考える」というタスクが加わります。

当然、その分CPUに余計な負荷がかかります。

逆に、余計なことを考えないようにできれば、スペックを「弾く」に最大限活用できます。

このように、プロはスペックが高いのではなく(アマチュアよりはいくぶん高いですが)、スペックを最大限活用できる能力を持っているということです。 

 

そう考えると、演奏時の処理速度を上げるための訓練、脳のスペックを上げるための訓練などは一切不要だとわかります。

音大などで、コードネームを見て瞬時にコードトーンを答えたり、相手と自分が同時に1音出して、瞬時に相手の音を当てるゲームなどをやったりしましたが、はっきりいって何の役にも立ってません。

そもそも、演奏中にコードトーンやコードネームなんて考える暇はありません。

むしろそれを放棄することでスペックに余裕を持たせ、それを演奏に生かすことを学ぶべきです。 

 

僕は仕事柄アマチュアミュージシャンと接する機会が多いのですが、ほぼ全員プロに幻想を抱いているといってもいいでしょう。

しかし、僕から言わせればプロもアマチュアも本質的な能力はそれほど変わりません。

元々同じスペックのマシンをどう使うか、どう鍛えるかの問題です。

そう考えると希望が湧いてくると思いますが、実はこれ、希望の裏にとっても残酷な現実が潜んでいます。

プロとアマチュアが本質的に変わらないとしたら、一生懸命やってプロレベルに到達できなかった人は一切他人や環境に責任転嫁できなくなり、その責任を全て自分が背負わないといけなくなります。
プロは生まれ持っての素質が違うとしておけば、自分がプロになれなかったいいわけになりますからね。

どの世界でもプロになれた人よりなれなかった人の方が多いから、そんな自分を慰めるために「プロはスペックが違う」という幻想が生まれたのでしょう。

 

プロも自分と同じという希望を胸に自己責任という絶望と戦うか、プロは最初から違うという絶望を受け入れ、自分を慰めるかはそれぞれの自由です。

……と、毎度のことながら『なんで俺はこう身も蓋もないことばかり書くんだろう…』とうんざりしますが、これが現実です。