もう10年以上前になりますが、いろんなジャンルのダンスを見せる舞台イベントがあり、知り合いの誘いで観ました。
そこに舞踏の室伏鴻さんも出演されていました。
舞踏とは、土方巽氏が創始したコンテンポラリーダンスの一種で、おどろおどろしさを基調とするのが特徴です。
60年代に流行し、現代でも受け継がれているようです。
室伏さんはその古参で故人。
さて、室伏さんの演目は、タイトルは忘れましたが、全身白塗りで上手に倒れた演者が、下手の盛り塩みたいなものに向かって痙攣しながら進んでいくというなんとも気色悪いものでした。
室伏さん得意のスタイルだそうです。
その舞台がはじまった瞬間、僕は全身が硬直して動けなくなりました。
指一本でも動かしたらシぬ!と本能が言っているような、そんな感覚に見舞われました。
目の前に座っていた老夫婦も、さっきまではポテチをバリバリ食ったりひそひそ話しをしたりとうるさかったのに、室伏さんの舞台では静かにしていました。
会場全体がそんな空気になっていました。
演目が終わり、灯りがついた途端に開放され、どっと疲れを感じたのを覚えています。
また、当時コンタクトをしていたのですが、たぶん瞬きをしていなかったのでしょう、目がカラカラに乾燥して痛くなっていたので、すぐにトイレに行ってコンタクトを洗いました。
それもはっきりと覚えています。
この室伏さんの舞踏を観て、本物の舞台は人間の本能に働きかけるものだとわかりました。
指一本動かせない、瞬きすらさせないほどに惹きつける舞台。
これが僕の最高基準となりました。
ダンスや演劇、ライブを観て、あの動けなくなる感覚があるかどうか、瞬きも忘れるほどに集中していたか(自分がそうしようと努力したのではなく、演者にそうさせられた)、良い意味で演目やパフォーマンスに自分が支配されたか……
ちょっと近いものは何度かありましたが、室伏さんのレベルに到達している舞台、演者はまだ観ていません。
いつかあれを越える舞台をまた観てみたいです。