イングヴェイ・マルムスティーンのピッキングについてはいろんな解説があり、僕も過去に色々書いています。
ピッキング研究に際して大いに参考にしたし、取り入れた部分もあります。
ピッキング本も書き終わった現時点(2020年8月)で改めて僕なりの所見を述べておきます。
よく「これがイングヴェイのピッキングだ!」と解説している人がいますが、見てみるとたいていひとつのピッキングしかしていません。
確かに、それも使っているので間違いではないのですが、イングヴェイは複数のピッキングを使い分けています。
数えてはいませんが、最低でも5つぐらいのピッキングを使っています。
もちろんそれに付随してフォームも変化します。
それらがシームレスに、気がついたら変化して、また戻ったり、もう一つ変化したりとめまぐるしく変わっていきます。
だから、見れば見るほど何をやっているのか分かりません。
本人も分からないでしょう。
これは以前にも書きました。
大きくてパーンと前に出て抜ける音。
それでいてめちゃくちゃ速いというのが最大の特徴でしょう。
ここはしっかり抽出して僕のピッキングに取り入れてあるので、ギタリスト身体論3が出版されたらチェックしてみてください。
個人的にはここさえ分かればあとはどうでもいいので、イングヴェイのピッキングはもう研究していません。
というか、研究しても絶対にできないのでやりたくないです。
イングヴェイのピッキングの隠れた特徴として「弾いてない感」があります。
めちゃくちゃ速弾きしてるのに右手を見てると、なんだか弦の上をふわーっと浮遊しているだけのように見えるアレです。
これはピッキングラインの合理化で出てきます。
ここもある程度は抽出し、その後自分でアレンジしました。
この弾いてない感が出てくるとなんかイングヴェイっぽく見えてくるので不思議です。
イングヴェイといえば脱力でも有名ですが、これは普通のレベルでの脱力ではありません。
イングヴェイは異次元のレベルで脱力をコントロールしています。
先ほどイングヴェイは複数のピッキングを使い分けていると言いましたが、普通そんなことをするとすぐに腕が緊張して固まってしまいます。
フォームAとフォームBでは使う筋肉が違うからです。
フォームAからフォームBに移行しても、ほとんどの場合はまだフォームAで使っていた筋肉が緊張しているので、それが邪魔になってフォームBを満足に使えません。
ある程度上達するとふたつのフォームぐらいは使いこなせるようになりますが、それが3つ、4つ、5つとなると普通はもう無理です。
イングヴェイはそれら最低5つぐらいのフォームのどれからどれに移行しても緊張せず、脱力したままの状態をキープできます。
これを発見したとき、僕は『あ、無理や……』と思いました。
イングヴェイを弾ける人はたくさんいますが、彼のピッキングを再現している人はいません。
再現は不可能です。
それぐらい特殊で、プロですら理解できないほど異質なことをやってます。
ギターの身体操作を専門にしている僕ですら、ようやく最近イングヴェイのピッキングは理解不能なことを理解しました。
僕がイングヴェイのピッキングについてできることは、どれだけ理解不能かを詳しく説明することだけです。
それぐらい異常なことをやっているので、はっきりいってイングヴェイのピッキングには近寄らない方がいいです。