ギターのレビューで必ずといっていいほど出てくる言葉に「レンジ」があります。
一般的にこの「レンジ」が広い方がいいギターだという文脈で使われています。
また、これは「鳴り」のような日本独特の謎の言葉ではなく、海外のレビューでもよく聞くので、「レンジ」はギターの善し悪しを判断する世界的な基準といってもいいでしょう。
ではレンジの意味を調べてみましょう。
この場合は2で問題ないでしょう。
和製英語で使っている意味と同じです。
だから海外のギターレビューで使われる「range」と日本でのそれが同じになっているのでしょう。
レンジ=幅、範囲だと分かりました。
じゃあ何の幅、範囲が広い/狭いのか?
答えは周波数です。
キンキンした音がハイ、ズーンと腹に響くのがローです(音程の高い低いではありません)。
この幅、範囲が広いと「レンジが広い」ということになります。
さて、最近とくに気になっていることがあります。
それは、ヴィンテージギターのレンジと現行ギターのレンジが全く違うということです。
なんとなくヴィンテージ=いいもの=レンジが広い…と考えてしまいますが、実際は真逆です。
僕が知っている限り、ヴィンテージの方がレンジが狭いです。
正確に言うと、ヴィンテージはギターにとって最適なレンジに最初から納められていて、どんなに強く弾いてもそこから出ないよう設計されています。
詳しくはこちらを参照。
一方、現行のギターはレンジが比較的広く、楽器によってはちょっと強く弾けばすぐにピーキーになります。
とはいえ、それは弾き方の話で、やっぱりレンジは広い方がいいのではないかと思えてしまいます。
ミックスをやる人は分かると思いますが、ギターが広いレンジで音を出していると、間違いなくイコライザーで補正することになります。
ベースやシンバルとかぶってきますからね。
また、ライブでよく抜ける音を出しているアーティストが、同じ機材で一人で弾いているのを聞くと、ちょっと違和感を覚えます。
なんかペラいな……ロー全然出てないな…などなど。
一言で言えばレンジの狭い音になっていることが多いです。
なぜかというと、アンサンブルに入ったときに最高の音になるように調整されているので、一人で弾いたときにレンジが狭く感じられるのです。
達者な人ほど本番用のセッティングはレンジが狭いというのが僕の予想です。
そして、ギターに必要なレンジに最初から納まってちょっとやそっとではそこから出ないというのがヴィンテージです。
これがヴィンテージギターが重宝される理由のひとつだと僕は考えます。
あれこれめんどくさいことしなくても、普通に弾けば勝手にいいところに納まってくれるので楽なんでしょう。
ここで疑問が生じます。
レンジが広いと弾きにくくなるし(強く弾くと暴れる)、どうせ補正される、じゃあ最初からヴィンテージと同じようにレンジが限定されたものを作ればいいんじゃないの?
結論から言うと、たぶんレンジの広いギターの方が売れるんでしょう。
もしかしたらそういうデータがあるのかもしれません。
ギターを持って一発弾いたとき、ハイからローまで広く出ている方がなんとなく気持ちいいし、いい楽器っぽいですからね。
ヴィンテージを弾いて、がっかりしたり、なんか拍子抜けした人はいると思います。
それはレンジの狭さに由来するのではないかと推察します。
一般的に歴の浅い人ほどヴィテージが理解できないのは、音楽経験の浅さ故に、ギターに広いレンジが必要ない(どうせ後で補正される)ことをまだ実感できていないのでしょう。
そういう人が年々増えてきたから、ある時期(70年代半ばぐらい?)からギターを売るためにレンジを広く取るようにシフトしていったのではないかと考えられます。
そこから半世紀経ち、結局60年代頃のレンジの狭いギターの方が重宝され、骨董品レベルの値段で取引されているというのは皮肉ですが。
ここから分かることは、ギターにおける「レンジ」とは子供だましだということです。
まだ楽器や音楽に精通していない人に強い印象を与えて買わせるメーカー、業界の手法だと考えていいでしょう。
また、口を開けば「レンジが、レンジが」と言うレビュワーもそれに乗っかって仕事をしている御用聞きだと考えていいでしょう。
実際のステージやレコーディングでそんなワイドレンジで弾いてるわきゃないですから…。
極論すれば、ギターはレンジが限定されているものの方が質がいいです。
ではどうやってそれを測ればいいのか?
こちらをどうぞ。