ギターをやっていると、必ず耳にするのがヴィンテージという言葉です。
また、ギターや楽器以外でも耳にすることもあるでしょう。
ただ、ひとくちにヴィンテージといってもイマイチ定義が分かりにくいところがあります。
まずは本来の語義を紐解いてみましょう。
<vintage>
- 上質の
- 上質で変わらぬ価値を持つ(古いもの)
- 最盛期の、最高の、古典的な
(THE WISDOM)
そもそもはワイン用語っぽいです。
そして重要なのは、ヴィンテージの語義は必ずしも古いものだけを指すわけではないということです。
現代風に解釈すると、「当たり年にできためっちゃいい物が、経年変化してさらに深みを増した」というところでしょうか。
だからヴィンテージは、製造された時はただのギター、それが中古になっただけではありません。
同時に、今の普通のギターが50年経ってヴィンテージになるかというと、ほとんどの場合そうはなりません。
ヴィンテージは最初からヴィンテージなのです。
それが語義的にも実際にも正しい解釈でしょう。
細かいことは端折って、じゃあヴィンテージギターの特徴ってあるんでしょうか?
例えば、普通のストラトとヴィンテージのストラトの違いとは?
もちろんあります。
ただ、これがかなり微妙というか、相当ギターを弾き込まないと分からないので、謎が多いと思います。
そこで今回僕が理解している範囲でヴィンテージギターの特徴を6つご紹介します。
この6つがあれば僕はそのギターをヴィンテージと認定します。
興味ある人は参考にしてください。
あくまで主観ですが。
まず一番分かりやすいところから。
ヴィンテージギターはよく言われるように、乾いた音がします。
現行のギターはちょっと湿り気があります。
その分空気にまざると音像がぼやける印象ですが、ヴィンテージはパリっとして空気に抗っている印象です。
それも、個体差ではなく、まちがいなくヴィンテージじゃないと出ない乾き具合があるのです。
ヴィンテージギターからは木の感じを強く受けます。
これがかなり説明し辛いのですが、ヴィンテージを弾いていると「木でできた楽器を弾いている」という感じを強く受けます。
もちろん現行も木でできた楽器なのですが、この木の感じが全然出ません。
もっと工業品っぽい、金属やプラスチックなどの感じが強いです。
なんでそうなるのかは全くわかりませんが。
もちろん、木の感じが絶対的ないい音の条件ってわけじゃないんですが、これを求める人はやはりヴィンテージじゃないとダメになります。
誤解を恐れずに言うと、ヴィンテージギターのレンジは狭いです。
現行のギター(非ヴィンテージ)の場合、上から下までまんべんなくカヴァーしていることが多いです
ハイはキャーンと耳に痛いところまで出て、ローはヴォーンと膨張してお腹に響く。
これって実は必要ないんです。
でも、いつからかギターはレンジが広い=善ということになってしまったようです。
しかし、ヴィンテージギターのレンジは狭いです。
ハイは全然でないし、ローも迫力がない、概ねハイミッドあたりが立ち上がった感じ。
だからはじめて弾くと物足りなく感じるはずです。
ただ、その狭さがギターにちょうど必要なところをカヴァーしているので、めっちゃ気持ちいいんです。
いらねーところを大胆にカットするところがアメリカンな発想です。
これはあんまり聞いたことがないのですが、僕がヴィンテージの特徴として如実に感じること。
ヴィンテージギターは入力への耐性があります。
入力とはピッキングのことです。
現行ギターは強く弾くとすぐに音が暴れて、痩せます。
ハイがピーキーになって耳に痛かったり、ローが暴れて膨らんだり、音の芯が消えてスカスカになったりします。
だからある程度ソフトピッキングにしましょうということは「ギタリスト身体論」で説き、それは多くのギタリストに支持されました。
しかし、ヴィンテージギターはどれだけ強くピッキングしても音が暴れません。
ハイもきつくならないし、ローも膨らまない、音痩せもしないし芯も消えません。
僕が今まで弾いてきたヴィンテージは全てそうでした。
先日購入した1966年製GIBSON ES-330も同じです。
おそらく、最初からレンジを限定してあるから、どんなにむちゃくちゃな弾き方をしても限定されたレンジからは出ないようになっているのでしょう。
キンキンしたハイを出したくてハードピッキングしてもヴィンテージはツンとして反応しません。
そう、ヴィンテージにはデレがないんです。
ヴィンテージ嫌いの人はそういうところがイライラするのかもしれません。
あと、昔のギタリストはよく「ギターとは強く弾くもんだ」と言いますが、恐らくそれはヴィンテージ(当時は新品)を使っていたからでしょう。
ギター用語で「レスポンスがいい」というのがあります。
ピッキングの変化に対する反応がいいということです。
現行の場合、強く弾けば弾いたなりに、ソフトに弾けば弾いたなりに反応がでますが(その結果いい音が出るかどうかは別問題)、ヴィンテージはどちらかというとソフトにしていけばいくほど反応が顕著で、しかもオイシイ音が出てくる印象です。
ヴィンテージの特徴として、スタッカートが楽に出せるというのがあります。
これまで見てきたように、ヴィンテージギターは乾いていて、余分なハイやローがカットされています。
だからか、音がすごく切りやすいんです。
ミュートした瞬間切れる感じ。
現行ではミュートしてもなんかちょっと残像みたいなのが残ったりしますが(もちろんそれを止めるテクニックもあります)、ヴィンテージはスパっと音が切れるので、なんかスタッカートの表現が上がった感じがします。
以上が僕がヴィンテージと言われるギターを弾いて、そのギターが本当にヴィンテージかどうかを見極める判断基準です。
個体によって強い弱いはありますが、上記のひとつでも完全に欠けている場合、僕はそれをヴィンテージとは呼びません。
一例として、僕が持っている78年製フジゲンプロトタイプ(世界に一本だけのプロトタイプギター)はヴィンテージっぽい音がしますが、僕はヴィンテージとは言いません。
いい音がする中古ギターです。
譲っていただいたデザイナーの方もヴィンテージとはおっしゃってませんでしたしね。
最後に、ヴィンテージでよく「枯れた」という表現が使われますが、これについても解説しておきます。
まずは語義から。
<枯れた>
- 人柄や技芸が深みのある渋さを持つようになる。
- 円熟する。
(大辞林)
これは芸能用語だそうです。
たぶん能あたりの隠語なのでしょう。
これが転じて、深み・渋みのあるヴィンテージギターのことを「枯れた」と言うようになったんだと思います。
ただ、言葉は生きています。
いつの間にか上記の意味の「枯れた」が本来の意味の「やせ衰えた」にすり替わり、ヴィンテージ=枯れている=痩せた音と解釈する人が出てきているような気もします。
上記の意味の「枯れた(円熟した)」ならまだ分かりますが、本来の意味の「枯れた(やせ衰えた)」をヴィンテージに当てはめている場合は間違いです。
なぜなら、ヴィンテージギターは全くやせ衰えた音ではないので。
もしかしたらヴィンテージ独特のレンジの狭さを「枯れている(痩せている)」と表現する人もいるのかもしれませんが。
それならそれで、「枯れた」とかドヤ顔で言わなくても、レンジが絞られていると言えばいいだけです。
いずれにせよ、したり顔で「ヴィンテージは枯れた音で~」と言う人がいたらそれが具体的に何を指すのか問い詰めるか、無視するのが賢明でしょう。