個人的に、アーティストは音楽の楽しい部分だけ伝えてもOKだと思います。
夢を与えるのがアーティストの役割なので。
しかし、講師は違います。
音楽を続けることの辛さ、苦しさもリアルに教えるのが講師の役割だと僕は考えます。
実際、音楽を続けていくことは辛く、苦しいものです。
趣味としてでも、楽器を1年も真面目に練習したら分かることです。
さらに音楽活動をはじめるともっといろんなことが起こります。
それでも活動を続けていくと、やがて進退問題に到達します。
このまま音楽を続けるかやめるか問題です(だいたい就職と結婚)。
そこを乗り越えると吹っ切れますが、ではその後はただひたすら楽しいだけかというと、そうでもなく、辛く苦しいことは相変わらず山積みです。
そういった辛く苦しいことを抜きにしてただただ「音楽は楽しいよ!」「楽器が弾けると人生が変わる!」とか言っている人は嘘つきです。
ただただ音楽をやることがずーっと楽しくて、何の苦労も苦痛も感じないままプロになって、人間関係も経済的にも問題なく、結婚もして子供もでき(それが音楽活動の障壁にもならず)、演奏上の壁に一度もぶち当たらず、いつまでも楽しく音楽をやっているだけという人はたぶん一人もいないでしょう。
じゃあ音楽は楽しくないのか? 苦しいだけかというともちろんそんなことはありません。
他では得られないような楽しさ、高揚感、達成感、陶酔、感動が得られることは事実です。
しかし、その時間は全体の1割、多くて2割ぐらいでしょう。
後は地味な練習、資金作りのためのバイトや仕事、人間関係の調整、そして煩悶や内省などに終始します。
その全部が音楽です。
だから僕はレッスンやブログ、電子書籍などで、できるだけその全部を見せるようにしています。
ギターの練習なら地味で辛い基礎練習や、めんどくさい勉強なども、できるだけ早い段階で伝えます。
そして、それができたらこんなことが出来て楽しくなるよというのもちゃんと説明します。
すると生徒さんは『え、こんな辛いことをやらないといけないの? もっと楽しいだけだと思ってた……』という反応をします。
中には『自分には一生できません…』としょんぼりする人もいます。
しかし、それで辞める人はほとんどいませんし、結果的に継続してきちんと習得し、次の段階に進んでいきます。
ギター講師を15年ぐらいやってきて分かったことは、人は楽しさだけでは継続できないということです。
なぜかは分かりませんが、辛い、苦しい、めんどくさい、といったこともしっかりと理解し、体感しないと人は何かを継続できません。
もし人が楽しいことしか継続できないのなら、スポーツなんてとっくに廃れているでしょう。
しんどい、痛い、怖い、辛い、それでも続けるのがスポーツだと思います。
音楽も同じです。
だから、そういったある種ネガティヴな部分を最初から開示することは講師の役目だと僕は思います。
じゃあ楽しさは伝えなくていいのでしょうか?
そもそも、音楽の楽しさなんて講師があれこれ伝えなくても、既に楽器を持っている時点で十分感じているはずです。
だからそこはほっといても全然問題ありません。
大事なのはこれから音楽をやっていく上でのリアルを伝えることです。
それをすると引いてやめちゃうんじゃないかというのは思い過ごしです。
ちゃんとリアルを伝えることで9割の人は続けてくれます。
人間はそこまでロマンティストではないのでしょう。