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はじめてのジャズ 44 セロニアス・モンク考


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セロニアス・モンクの功績(ビバップ誕生に一役買ったり、数々の名曲を生み出したり)はいくつか記事を読めば理解できますが、彼の演奏については初心者はもちろんジャズの玄人でもなかなか理解が難しいです。

僕もモンクの何がいいのか、何が凄いのかと訊かれるとちょっと言葉に詰まってしまうのですが、ここらでこの積年の宿題について答えを出しておこうと思います。

 

モンクの演奏は、

 

テーマ

リフ

一貫性

 

という3つのキーワードから紐解くことができます。

今回はそれを、名盤といわれる「Straight No Chaser」(1966年)から解説します。

ジャズをやるには避けて通れない一枚なので、お持ちでない方はこの機会に手に入れておいて損はありません。

ストレイト・ノー・チェイサー

ストレイト・ノー・チェイサー

 

 

 

まず1曲目の「Locomotive」を聴いてみましょう。

ちょっとコミカルで奇妙なテーマが終わるとサックスのソロに入ります。

しかしソロは置いておき、モンクのバッキングを聴いてみましょう。

ちょっと聴けばそこにリフがあることが分かります。

一般的なジャズのバッキングはソロがメインでそれを引き立てる役割となるので、ソロの影に上手に隠れながらときおり自己主張するのがよしとされます。

当然、ソロは自由に演奏されますから、それに合わせようとするとバッキングはリフ(同じ事を繰り返す)にはなりません。

しかしモンクはソロに合わせず、伴奏で自分のリフを弾いています。

ソロの方がそのリフに合わせて演奏していますが、そこは今回はパス。

もちろんリフといっても全く同じことをずっとやっているわけではありませんが、最低でも同じようなことを二回は継続して弾いているのがわかると思います。

これはモンクのバッキングに共通して見られるスタイルです。

 

 

次に4曲目の「Japanese Falk Song」を聴いてみましょう。

ちなみにこれは、滝廉太郎の「荒城の月」です。

ジャズファンには有名なカヴァーですね。

さてこれもテーマが終わるとサックスソロになりますが、またサックスは置いておき、モンクのバッキングを聴いてみましょう。

じっと聴いているとバッキングからテーマのメロディが聞こえてきませんか?

そう、これもモンクの特徴です。

バッキングにテーマを織り込むということはよくありますが、普通ここまで徹底しません。

この曲でモンクはサックスソロ3コーラス分、テーマをしっかり織り込んだバッキングをしています。 

おもしろいのは、1コーラス目はかなりテーマっぽく、2コーラス目はもう少し崩して、3コーラス目はさらに崩しているところです。

偶然なのか、それともモンクの中でそういうプランがあったのかは分かりませんが。

そしてサックスソロ4コーラス目からははっきりとリフのバッキングに移行しています。

もうテーマは聞こえてきません。

といってもヴォイシングの中にテーマのメロディがしっかり入ってはいますが、それらはある種隠すようにして織り交ぜ、リフであることを際立たせているようです。

 

 

5、6、7コーラス目はなぜかバッキングを完全に休み、その後ピアノソロとなります。

ここで一貫性というキーワードが見えてきます。

モンクは他のジャズメンと違い、一度何かをはじめたら必ず1コーラス単位で続けます。

マイルスのようにコーラスの途中でやめたり、また戻ったりということは基本しません。

また、ジャズによくあるように、1コーラスの中でインスピレーションに従って何度も方針転換するということもなく、このコーラスはこれで行くと決めたら、一貫して最低1コーラス単位でそれを続けます。

モンクにとっては1コーラスが音楽の最小単位であるかのようです。

これは私見であり想像でしかありませんが、彼の独特の間や奇妙なヴォイシングも、「どんなにヘンテコなことでも1コーラス続ければ説得力が出る」という独自の理論があったのではないかと思います。

実際に聴いていても、最初は「うわっ、何だこりゃ?」と思うものの、ずっと続けられるとなんかそこに説得力が感じられてきます。

モンクのようなプレイを1コーラス一貫して続けずに、ずっと違うことをやっていたら聴けたもんじゃないでしょう。

 

 

さて、今度はモンクのソロです(曲は同じ)。

こちらは最初から最後まできっちりテーマを踏襲しています。

どこまでいってもテーマのメロディが聞こえてきますよね?

途中本当にテーマに戻ったかと思えるところすらあります。

ここでも「テーマ」、「一貫性」というモンク独特のキーワードが見えます。

 

このアルバムだけでなく、「テーマ」「リフ」「一貫性」という主題は、モンクのリーダー作には必ずといっていいほど見られます。

まるで円熟した純文学作家の晩年のように主題が一環している様は、芸術家のひとつの理想であり、完成形であると改めて感じられます。

また、そういった文脈でモンクを捉えたとき、奇妙とか変とか、個性的といった言葉ですらいかに彼の音楽の表面しかさらっていないか、いかにセロニアス・モンクというジャズメンを冒涜しているかがわかります。

モンクの演奏には、あらゆる芸術が兼ね備えている普遍性が、もっとも分かりやすい形で体現されています。

ただ、その表面にまぶされたスパイスがあまりにもきつすぎて、なかなか奥にあるものが見えなくなっているのが残念です。

これからモンクを聴く人は、「テーマ」「リフ」「一貫性」というキーワードに気を付けて聴いてみてください。

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