アドリブ初心者は、とりあえず安定したアドリブを目指していると思います。
おおよそどんな曲でもロストせず、練習したフレーズを出せて、それなりにインタープレイもできる。
確かにそこに到達するだけでもかなりの努力が必要です。
また、プロを目指す人は安定したアドリブが自分のスキルを保証する履歴書にもなります。
一方でアドリブが安定期に入るとやっかいなものが待っています。
それは「やっつけ感」です。
ここでこう弾けばこういう効果がでる、こう聞こえる、こう反応がくるといったことを一通り身につけると、あとはそれをやるだけです。
こうなったとき、人は必ず手を抜きます。
普段の仕事を思い出してください。
段取りを完璧に把握し、目を瞑ってもできる仕事を全力で行いますか?
しませんよね。
おそらく可能な限り力をセーブして仕事にあたるでしょう。
アドリブも同じです。
安定期に入るとそうして無意識のうちに力をセーブしてアドリブをとってしまうので、どうしても「やってつけ感」が出てしまいます。
ジャズミュージシャンのあのめんどくさそうな仏頂面やなんか余裕っぽい感じ、嫌々やってんのかな?といった雰囲気がそれです。
この「やっつけ感」が出てしまうと、パフォーマーとして一度死んだと思っていいでしょう。
厳しい世界であれば「やっつけ感」のある演者は舞台に立たせてもらえないでしょうが、残念ながらジャズでは完全にスルーされてしまい、どんな現場でもそこを指摘されることはまずないでしょう。
とはいえ、安定しなくていいかというとそうでもありません。
必要なのは、安定を手に入れた上でのさらなる冒険、さらなる挑戦、遊び心、勇気です。
その相反するものを常に持ち合わせることは、日本人には至難の業であり、そこを訓練するのがアドリブの練習だと僕は思います。