ある程度楽器が弾けるようになり、活動が充実してくると、曲を流れ作業のように処理することが増えてきます。
これはどうしたって仕方のないことです。
教室や専門学校で出た課題曲だから、サポートで頼まれたから、急な仕事で短時間で沢山の曲を覚えないといけなくなった……。
そうした状況が増えていくと、やがては全ての曲を流れ作業のように弾いていて、しかもそれに気づかないという状況にさえなります。
「流れ作業」とは、その楽曲の歌詞も知らない、オリジナル音源も聴いたことがない、歴史的背景も知らない、究極はその曲に対して何のイメージも持っていない状態で演奏することです。
もちろんそうした「流れ作業」は仕事を円滑に、スピーディに進めますし、それで対価をもらい、しかもミュージシャンとしての信頼を得ることもあります。
しかし、アーティストとしては確実に腐っていきます。
そうならないために、常に1曲は深く掘り下げて弾く課題曲を持っておくといいでしょう。
「上手に弾く」「間違えずに弾く」「早く覚える」といったことを一度無視して、まずはその曲の歴史(誰がいつ作ったのか、時代背景は、誰がどんなカヴァーをしているのか)を勉強し、ある程度分かってきたら今度は自分がどう感じるか、感じたことをどうやって音として表現するか、その曲に合ったサウンドは?今自分が演奏することの意義は?現代的な解釈は必要か、不要か……といったことを深く深く考えながら弾くための課題曲を持っておきましょう。
どこかで発表する必要はありません。
自分の音楽感を深めるため、あるいは仕事としての流れ作業に身も心もゆだねてしまわないために、自分自身の課題として行うのです。
1曲に何ヶ月、何年かかってもかまいません。
そうやって1曲を深く深く掘り下げていくと、他の楽曲の深さもなんとなく分かってきます。
そうなると、流れ作業的に曲を覚え、演奏する際にも何か変化が出てくると思います。