では実際の楽曲からジャズの構造や聴き所を解説していきたいと思います。
今回はジャズベースの典型的なパターンを聴いてみましょう。
これを理解することで楽曲の構造をひとつ理解でき、聴き所が増えます
まず「2フィール」と「ウォーキング」についてご説明します。
とりあえず手拍子をしてみてください。
それを1234、1234…とカウントしていきます。
この1234が1小節です。
2フィールとは、この1と3でベースを弾くことです。
聴いていると「ボーン(2)ボーン(4)」と聞こえるはずです(2と4は何もない)。
ウォーキングは1234全部弾きます。
「ボーンボーンボーンボーン」と聞こえます。
ジャズベースではこの2フィールからはじめてウォーキングに切り替えるという王道パターンがあります。
とりあえず聴いてみましょう。
本シリーズですでにご紹介したHank Mobleyの「Soul Station」から。
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冒頭の「ダッダッダッ」というところを抜けるとベースが2フィールで弾いているのがわかります。
その後またキメ(伴奏が全員同じフレーズを弾くこと)が入りますが2フィールは続きます。
そして41秒あたりで一端演奏がスパっと止まります。
これをブレイクと言います。
ブレイクはセクションが変わるところで行われることが多いので、スパッと全体が止まったらそこから別のセクションが始まると認識しましょう。
そしてブレイク後にサックスソロに突入するのですが、ベースをよく聴くとウォーキングに変更しています。
このように、
テーマ→2フィール
ソロ→ウォーキング
というのが王道パターンです。
これも一種のアドリブなので、毎回必ずそうするとは限りません。
楽曲の雰囲気や全体の流れ、メンバーのレベル、などなどを見てドラムとベースが阿吽の呼吸で作っていきます。
ではなぜ2フィールからウォーキングという流れを作るのでしょうか?
それは楽曲に緩急をつけるためです。
2フィールでは、ウキウキしながらもまだ腰を落ち着けたようなゆったりした雰囲気が出ますが、ウォーキングになると文字通り歩き出した(走り出した)ようなスピード感が演出できます。
ずっと2フィールやずっとウオーキングよりも、2フィールからのウォーキングという変化をつけた方が楽曲が起伏に富んだものになるのです。
逆に、頭から全力疾走したい場合はいきなりウォーキングではじめるべきでしょう。
ではアルバムの頭の曲「Remember」を見てみましょう。
こちらも冒頭から分かりやすく2フィールで入っています。
44秒あたりで”ブレイク”し、そこからソロに入るのですが、今回はソロに入っても2フィールを続けています。
このテンポでこの雰囲気の曲なら2フィールを続けた方がいいと判断したのでしょう。
そしてソロを1コーラス行い、2コーラス目(1分33秒あたり)からウォーキングに切り替えています。
ちなみに、ここでウォーキングに切り替えるきっかけを作ったのはピアノだと僕は思います。
なぜなら、それまで大人しめの伴奏をしていたピアノが、1コーラス目の終わりで「チャチャチャチャチャチャチャ」と音数の多いフレーズを強めに弾いているからです。
『次、ウオーキング行けよ!』という煽りを入れたのでしょう。
もしかしたら、ソロに入ってもまだ2フィールだったのが気に入らなかったのかもしれません。
そして、ピアノの煽りを受けてベースが『はいはい、わかったよ』とウオーキングに切り替えたんだろうと僕は解釈しています。
ジャズを丹念に聴いていくとこういった音の会話が聞こえてくるようになります。
この解釈が正しいかどうかではなく、自分なりにそういった会話が聞こえてくるというところがポイントです。
そうなれば、音源を聴きながらまるで目の前でセッションが行われているかのような気分に浸れます。
ちなみに、Sonny Rollinsの「The Bridge」に収録されている「Without a Song」という曲では、2フィールとウォーキングの中間のような個性的なベースが聴けます。
興味のある人はどうぞ。
ギターは故ジム・ホールなのでジャズギター好きもぜひ。