ロックにはミクスチャーというジャンルがあります。
今でもそう呼ぶのかどうかは分かりませんが、90年代から台頭しはじめたロックと他のジャンルを積極的に混ぜるジャンルです。
Rage Against The MachineやLimp Bizkitあたりがその走りで、日本だとDragon Ashなどが有名です。
こうした音楽もある種ロックからの<逸脱>なのかもしれません。
とはいえ、それらはあくまでロックというジャンルの中のごく一部の現象にすぎません。
しかし、ジャズはごく初期から他のジャンルを積極的に取り入れようとする性質がありました。
古くはシャンソンやミュージカル曲、映画の主題歌など、ボサノバが流行れば皆がこぞってボサノバをレパートリーに入れたり、ロックが台頭してくれば楽曲に積極的に8ビートを取り入れたり…。
一部の先進的な若手ミュージシャンだけがそうしていたのではなく、むしろすでに売れて地位を確立したミュージシャンの方が積極的にジャズというジャンルから<逸脱>していったように見受けられます。
特に60年代以降はその傾向が強く、多くのアーティストが伝統的なビバップからロックやファンク色の強い演奏に鞍替えしています。
ではそれはもう別のジャンルなのかというと、それはそれでやはりジャズなのです。
もう少し時代が進むとロックやヒップホップとも融合しますが、それもやはり広義のジャズです。
このように、ジャズはそれ自体がどんどん<逸脱>していくジャンルなので、形式や使う楽器、サウンド、リズムなどでジャズを定義するのはほぼ不可能です。
強いて言えば僕が言っている<逸脱>の精神があるかどうかでしょうが、それもやはりわかり辛いといえばわかり辛いでしょう。
初心者の方がジャズファンに「ジャズって何?」「どれを聴いたらいいの?」と訊いても明確な答えが反ってこなかったり、逆にやたらとたくさんの固有名詞を出されたり、「勉強しろ」と説教されたりするのは、そういったジャズの性質を知っているからです。
スイングもビバップもフリーもフュージョンもコンテンポラリーも聴いている人からすると、「ジャズって何?」ほど困る質問はないかもしれません。
かといって、「ジャズとは<逸脱>精神だ」とドヤってもそれはそれで余計に相手を困惑させるだけです。
そう考えるとやはりジャズは難しいと言わざるを得ないでしょう。