ジャズの楽曲において最も分かりやすい<逸脱>はアレンジではないでしょうか?
それぐらい、ジャズミュージシャンは原曲から<逸脱>したアレンジを好みます。
そうした傾向は1950年代にはもう見えていました。
また、「え? この曲をジャズでやるの?」といったサプライズもジャズの十八番といってもいいでしょう。
そう、今でいう「弾いてみた」の原型(珍しい楽曲を斬新なアレンジで演奏することを競う)がジャズではもう50年前に行われていたのです。
そういった意味では、現代のミュージシャンや音楽ファンからしてみれば理解しやすいのかもしれません。
ただ、<逸脱>を目指すあまり奇をてらったアレンジになることもしばしばあり、うんざりさせられるのも事実です。
これは「弾いてみた」でもありますよね?
せっかくの美しいバラードをメタルアレンジにして世界観をぶち壊していたり、テクニックを誇示するために異常にテンポを上げたり、シンプルな楽曲をわざと変拍子にしたり、コードチェンジを異常に難しくしたり……。
これらは<逸脱>のための<逸脱>であり、ほとんどの場合は美しくありません。
ジャズのアレンジにおける<逸脱>は、あくまでそうすることで美しく(あるいは力強く、はかなく、鋭く)なるからそうしているものだと僕は思います。
個人的に好きなのは、グラント・グリーンの「Moon River」です。
オリジナルは61年に公開された映画「ティファニーで朝食を」の主題歌で、3拍子の切ないバラードです。
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グラントはそれを同年に録音された下記のアルバムで早速取り上げ、なんと4拍子の軽快なミディアムテンポで弾いています。
これがまた可愛らしくてそれでいて力強い演奏で、オリジナルに新しい生命を吹き込んだと言っても過言ではありません。

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ジャズのアレンジに見る<逸脱>はこのように、原曲に新しい生命を吹き込む作業であり、決して目立つために奇をてらったりテクニックを誇示したりするためのものではないのです。
私見ですが、黒人が<逸脱>するのは、<逸脱>した先に美があると確信しているからです。
美が消えてしまってもまだ執拗に<逸脱>するのは黒人精神の<逸脱>ではなく、従ってそれはジャズではないと僕は考えます。
ジャズのアレンジからはそうした精神が垣間見える気がします。