ではここから、ジャズの楽曲においてどのような<逸脱>が行われているのかを具体的に解説していきましょう。
まずはジャズをジャズたらしめている要素であるアウトについてです。
アウトとは、わざと音程を外して緊張感や浮遊感を出すジャズ独特のテクニックです。
1940年代あたりからこうした技法がジャズミュージシャンの間で盛んに取り入れられ 、それはやがてBe-Bop(ビバップ:通称バップ)と呼ばれ大流行します。
引用サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Bebop
一説によると、チャーリー・クリスチャンというギタリストがはじめてアウトをした人であると言われていますが、本当かどうかは分かりません。
ただ、クリスチャンは世界ではじめてエレキギターを使った人でもあり、私生活でもドラッグや女に溺れ、そのせいか早死にしているので(25歳で死去!)、新しいもの好きで相当な<逸脱>者だったことが推察されます。
ですから彼がはじめて音を外す技法としてのアウトを使ったとしてもそれほど不思議ではありません。
このアウトという音楽技法は黒人精神である<逸脱>と完璧に合致し、瞬く間にジャズの世界に広がりました。
最初はほんの一音、注意して聴かなければ外したかどうかも分からない程度のアウトだったのでしょうが、そこから徐々に解釈は広まり、後に歴史に残るミュージシャンたちが独自のアウトを切り開いていきました。
このような、誰が一番かっこよく間違えられる(アウトできる)かを競い合うという文化は、日本にはありません(強いて言えばお笑いがそういう文化なのかもしれませんが、ちょっと違う気がします)。
この一点だけを見ても、ジャズがどれだけ我々の文化から遠いところにあるかが分かると思います。
日本で誰かがチャーリー・クリスチャンのようにアウトしたとしたら、即座に村八分にされ何事もなかったかのように闇に葬られるでしょう。
アメリカはアメリカで、黒人が生涯を賭けて造り上げた文化が花開いたとたんに白人に吸い上げられるという悪しき構造があったようですが。
とにかく、これからジャズを楽しみたいという人は、ジャズは音を外す音楽だと覚えておいてください。