ジャズをはじめて数年経った頃(たぶん二十歳ぐらい)、習っていた先生がいました。
その人はかなりのベテランで、界隈では名の知れた人です。
ある日のレッスンで、先生がオケに合わせてバッキングし、僕がソロをとるとき、僕は強烈な違和感に襲われてソロを弾くのをやめてしまいました。
しかし、先生はバッキングの手を止めることなく(ソロに転ずるでもなく)なんと最後まで一人でバッキングをして曲は終わりました。
そして「なんで弾くのやめちゃったの?」と不思議そうに僕に訊いてきたのですが、僕は答えられませんでした。
あのとき僕が感じた違和感こそ、今で言う「それじゃ弾けない」状態です。
相手が果てしなく遠く感じ、自分が無視されている感覚、これは何だ?という強烈な違和感、寒々しい感じ……。
あの日のレッスンでは、その感覚が理性を越えて爆発し、弾けなくなったのでしょう。
そして、その感覚は、いまでは正しかったと確信できます。
その証拠に、その先生は記号を上手に合わせることしかできない人だからです。
ついでに言うと、自分のスタイルもなく、誰々風のギターを何十年も弾いている人です(だから今では全く尊敬していません)。
そして何より、あのとき僕が弾くのをやめたという異常事態に何の関心も示さず、ただただバッキングだけを続けていたということが、相手を無視した段取りをやっている証拠です。
そういったことは形を変え、相手を変え何度かあり、その都度自分が間違っていると勝手に思い込んでいたのですが、今考えればそうでもなかったみたいです。
そして、そうやって感覚を理性で押し殺してギターを習っていたので、かなり遠回りしてしまいましたが、まあそれもよかったかなと思っています。
とはいえ、感性を大事にしろ、先生を信用するなという話ではありません。
というのも、感性の方が曖昧で、ブレることが多いからです。
上記のような出来事も、数年に一回起こるかどうかですし、それが正しかったかどうかは十年後二十年後にならないとわかりません。
しかし、演奏の手が止まってしまうほどの強烈な違和感には、必ず何かがあります。
そういった瞬間はしっかり覚えておくと、後々で自分の感覚を全部ひっくりかえすほどの転換のきっかけになるかもしれません。