ギターの「抜け」について再度僕の考えを述べておきます。
よくギターの売り文句で「最高の抜け!」とか「これほど抜けのいいギターはそうそうありません」みたいなのがあります。
これは、楽器それ自体が「抜け」を持っているという説明になります。
普通に考えればそれがありえないことであるとわかります。
まず、楽器は弾き手によって音は変わりますし、電子楽器ですからアンプによっても変わります。
誰が弾いても、どんなセッティングでも抜けるギターなど存在しません。
仮に、「これは絶対抜ける」という音を出せたとします。
しかし、それも状況によって変わってきます。
アンサンブルによっては抜けなくなる可能性があるし、会場によっても音は変わってきます。
このように、「抜け」は楽器そのものが持つ絶対的な概念ではないのです。
音が抜けるとはどういうことでしょう?
結論から言うと、抜けるとは「自分の楽器の音がアンサンブルに埋もれていない状態」です。
重要なのは、楽器の持つ「サウンド」や「音のキャラクター」ではなく、全体の中でのギターの「状態」であるという点です。
「抜け」を「サウンド(キャラクター)」と定義すると、どうしても楽器固有のものであると勘違いしてしまいます。
その結果アンサンブルを無視し、自分一人で抜ける音作りを模索するという無駄な作業に没頭してしまいます。
「抜け」とは、「全体の中でのギターの状態」なので、一人で抜ける音を作ることは不可能です。
もちろん、ベテランギタリストならアンサンブルや会場での全体のサウンドを予測することは可能ですが、それでも誤差は生じるでしょう。
これは単純に、経験を積むしかありません。
しかし、それではそっけないので、僕がバンドマンの生徒さんによく教える音作りをお教えしたいと思います。
まず、ベースの人にハイをできるだけカットしてもらいます。
そして、自分はローをカットします。
そうすると周波数の住み分けができ、全体で合わせたときそれぞれの音が抜けやすくなります。
コツとしては、ギター一本で弾いたときにちょっとペラいな、もっとローが欲しいなと感じるぐらいにすることです。
その「欲しいロー」をベースが補ってくれるので、全体では問題ないはずです。
ベースなら「もうちょっとハイを上げてブリンブリンいわせたいな」という気持ちを我慢します。
自分の楽器だけであらゆる帯域をカヴァーしようとすると、だいたいアンサンブルで抜けなくなります。
で、抜けないからさらにイコライザーを使うという悪循環に陥ります。
抜ける音が目的であれば、アンサンブルに混ざった「状態」を考慮して音を作りましょう。
ただ、スタジオでは抜けていたのに、ライブハウスで演奏したときは全然抜けなかった、あの会場では抜けていたのに、別の箱では全然だった……ということもあります。
そこはやはり経験が必要なのでしょう。