横浜ギター教室にジャズを学びにくる生徒さんが増えて、僕自身も改めてジャズを教えながらジャズを学んでいます。
そんな中、浮き彫りになってきたのがジャズに絶対必要な「到達→破壊」というプロセスです。
例えばⅡーⅤフレーズで考えてみましょう。
ジャズ初心者の人は、ⅡーⅤフレーズをきっちりと使いこなせることがひとつの目標となります。
この「ⅡーⅤフレーズをきっちり使いこなせる」が「到達」です。
そして、そこに向けて練習していきます。
それを練習しているうちは、「到達」の先に素晴らしい音楽世界が広がっていることを夢見ています。
また、一般的な事例から考えて「到達」がその目標においてのゴールだと考える人がほとんどでしょう。
しかしジャズにおいては違うのです。
一生懸命ⅡーⅤを練習し、ようやくいろんなタイプのⅡーⅤをスラスラ弾けるようになったとしましょう。
そこに待っているのは夢にまで見た素晴らしい音楽体験ではなく、「なんか違う」という現実です。
具体的に挙げると、
・ⅡーⅤだけやたらとフレーズが際立ちすぎていて他の部分と馴染んでいない
・ⅡーⅤだけいかにも「練習してきました!」感が出ていてあざとい
・フレーズの流れがつぎはぎで不自然
・ⅡーⅤのためにソロを弾いている気がする
・ⅡーⅤばかり気にして視野が狭まっている気がする
などなど。
ジャズをやっていれば必ず悩むポイントです。
この問題にぶち当たった人は中級者だと自認していいでしょう。
さて、せっかく一生懸命練習したⅡーⅤが弾けるようになったのに、自分のソロがむしろ悪くなっている気がする……、この難問を解決するために「破壊」というプロセスが必要となります。
これは単純に、ⅡーⅤフレーズをどんどん崩していくという練習です。
例えば、きっちり解決しない、Ⅱしか弾かない、Ⅴしか弾かない、あえてペンタにしてみる、いかにもフレーズフレーズしたものを弾かない、などなど方法はいくらでもありますし、過去の名演にもそんな崩したⅡーⅤは山のようにあります。
そうしてせっかく獲得したⅡーⅤフレーズをあえて破壊していくことで、やっとジャズらしくなっていきます。
そうやって「到達」したものを「破壊」していく過程ではじめてⅡーⅤが本当に弾けるようになったと実感できてきます。
これはジャズの全ての要素に言えることです。
最も分かりやすい例としてはアウトがあるでしょう。
最初はコード進行にそってソロを展開することに必死ですが、いざそれが出来るようになっても(到達)ジャズには聞こえません。
そこでコードから外れたいわゆるアウトを入れる(破壊)ことを学び、はじめてジャズらしくなってきます。
タイムも最初はジャストを目指しますが、いざジャストに「到達」してもジャズにはなりません。
そこでタイムを「破壊」し、ずらすことを覚えていくとようやくジャズらしくなってきます。
このように、ジャズの学びには必ず「到達→破壊」がセットになっており、それを見越した練習をしないとジャズらしくなっていきません。
ジャズをある程度やっている人はたぶん本能的に分かっているはずなんですが、実際そういうことをする人はほとんどいません。
なぜかというと、せっかく「到達」し、獲得したものをいきなり捨てるのはもったいないし、落ち込むからです。
言い方は悪いですが、貧乏根性ですね。
確かに、一生懸命練習してようやく弾けるようになったⅡーⅤフレーズを、弾けるようになった途端「はい、じゃそれ崩していきましょう。そのまま使ったらダメだよ」と言われたら、今までの自分の苦労は何だったんだと虚しくなってしまいますよね?
だからほとんどの人は、「到達」し獲得したものを必死で守ろうとします。
その結果、せっかく次のステージに行く扉が開いているにもかかわらず、一歩踏み出せず、先に進めなくなってしまうのです。
そこそこ弾けるのにそこから先がどうしても見えないという人は、「到達」した自分をを守り、かわいがりすぎているのです。
だから僕はそこから先に進んでもらうために「はい、到達しました、じゃあ今度はそれを崩していきましょう。そのまま使うのはダメですよw」と無理矢理先に進めます。
すると生徒さんは絶句しますが、案外楽しんでくれています。
「到達」したものを、「到達」した瞬間手放すという学びは日本にはおそらく存在しないので、やってみると以外とおもしろかったりします。
ただ、どうしてもそれを楽しめない人は……残念ながらジャズではもう先に進むことはできません。
ジャズをやっていて、アドリブもバッキングもできる、セッションも何度も経験している、スタンダードも沢山覚えている、でもなんか違う、なんか先に進めない、と悩んでいる人は「破壊」をしていないのです。
というか、「破壊」などということを考えもしなかったでしょう。
ということは、今自分が獲得しているものをどんどん崩して壊していくと先に進める可能性が出てきます。
何をどう壊すのかは見識がいるので、そこらへんが知りたい人はレッスンにお越しください。
自分でやりたい人は、ジャズの名盤を徹底的に聴きましょう。
僕もそうしてこのような考えを持つに至りました。
学校ではこんなこと教えていませんからね。