一般的に、ジャズは難しいとされます。
と言うと「ジャズは全然難しい音楽じゃない。リズムに乗って楽しめばそれでいい」とジャズ側から無責任な反論が必ず起こります。
もちろん、こんな言葉には何の意味もありません。
ジャズに興味がある人はそもそもリズムに乗って楽しもうと最初からしているはずですが、それでもやっぱり難しいと感じてしまうのでしょう。
それをやさしく紐解いてあげるのがジャズ側の責任のはずですが、ジャズの人はあえてそれをしない傾向があります。
特権意識、ムラ意識、あるいは単なる意地悪、いろんなどろどろした心理が働いているのでしょう。
そうしたジャズ側からの拒絶とも取れる態度のせいで、ジャズを楽しんでいる人とジャズを楽しみたいと思っている人の溝は広がる一方です。
そうやって拒絶しておいて「ライブに人が来ない」「CDが売れない」とぼやくので始末におけません。
そんなだからジャズは衰退して当たり前だし、さっさと離れようと思って書いたのがこちらの本です。
そんな中、例のビンタ事件についてかなり突っ込んだ記事を書きましたが、その反応は僕にとっては意外でした。
こちらの記事で、
僕はジャズという音楽を説明するために<逸脱>と<回復>という言葉を使いました。
これ自体はそもそもジャズの世界にあった言葉ではなく、本件を説明するために僕が作った造語です。
ちょっと文学的な象徴度合いが強すぎるかもと危惧したのですが、勢いで使ってみたところ、「分かりやすい」「そうだったのか!」「確かに」「知らなかったけどちょっとだけジャズがわかった気がする」などと、ジャズを知らない人から好意的な反応が得られました。
そういったツイートやブコメを読んでいて、どうやらジャズに興味がある人はけっこういるらしいぞと改めて感じました。
確かに、折に触れて起こる「ジャズは難しい」という苦情(?)の裏には、『ジャズを知りたい、楽しみたいのに…』という想いがあるのは当然です。
そうした想いを理解すればするほど、ジャズを初心者にもわかりやすく楽しめるように解説したい!という気持ちが僕の中におこってきました。
ではどう説明すればジャズを理解してもらえるのか、楽しんでもらえるのか……と数日考えてみたんですが、どういう切り口から入っても、どうしてもちょっとだけ勉強してもらわないといけなかったり、慣れるまで辛抱してもらわいないといけないということがわかってき、がっくりと来てしまいました。
ジャズはやっぱり難しいのか、すぐに楽しめる方法はないのか、そういえば自分も最初はさっぱりだった、やっぱりジャズは一部の熱心な人だけ楽しめるものでしかないのか……
と少々落ち込んでいたとき、ふとある考えが浮かびました。
そもそも、ジャズ側の人間は、なぜ皆やっきになって「ジャズは難しくない」と言うのだろう? そう言ってる人も最初は絶対「難しい」と思っていたはずなのに。
「ジャズは難しくない」と断言するのは、たとえるなら「コーヒーは苦くない」と言っているようなものではないでしょうか?
「コーヒーは苦いよ、自分も最初はそう感じてた。でもその奥に甘みや酸味があって、それがわかってきたらおいしく飲めるようになった。だからしばらく苦みを我慢して飲んでみてごらん」と言われれば「じゃあそうしてみようかな」と思えるはずです。
でも、「コーヒーは苦くない!」と言われば「は? 苦いし。意味わからん。だからコーヒー通は……」と拒絶反応が起きてしまいます。
それと同じで、あえて「ジャズは難しいよ」という前提に最初から立って、じゃあ何が難しいのか、その難しさをどうやって克服するか、自分はどうしたのか、その難しさの先にある楽しさとは何かを丁寧に説明すればいいのでは?
そう考えられるようになりました。
ジャズが理解できない、ジャズが楽しめない、その原因は初心者もミュージシャンもジャズファンも「ジャズは難しくない」という幻想に浸っていたからではないでしょうか?
不本意でもあえて「ジャズは難しい」という前提に立つことで、初心者は何を学び何を克服すればいいのかが明確になり、上級者は「ここが難しいよね。でも自分はこうやって克服したよ」と体験を踏まえたアドバイスができるようになります。
そう、ジャズは難しいのです!
そしてその難しさを攻略していく音楽だというところからスタートしてみましょう。
ということで、「はじめてのジャズ」ではジャズの「難しさ」を解説しながらジャズに近づくきっかけを掴んでもらうよう、記事を書いていきます。