客を舐めてるミュージシャンが多いのは事実です。
僕もそんな時期がありました。
なぜそうなったのか、ひとつだけはっきりと分かっていることがあります。
とある地方でライブをやったときのことです。
そのときはギャラも破格だったし、やる気もあり、ちゃんとリハもしていました。
機材は持ち込みでPAとかはなかったはずですが、それもいつものことなので問題ありません。
会場も、観客の入りも、主催者の対応も全て何も問題ありませんでした。
しかし、なぜか演奏がぐだぐだになってしまい、共演者と苦笑いしながらなんとか続けました。
まあ、そんな日は時々あるものです。
セット間、控え室で「今日なんか合わないね~」とか言いながらその日は最後まで演奏しました。
しかし、問題はここからです。
なんと、終わってからお客さんが「よかったよ」「素晴らしかった」「次はいつ来るの?」と、次々と感想やお礼を述べに来てくれるのです。
それも、みな瞳をキラキラさせて、心から感動しているように見えます。
僕は心底戸惑いました。
は?
何言ってんの?
さっきのぐだぐだな演奏がよかった??
もっぺんあれをやりに来てほしいって???
頭が混乱して、目の前がくらくらしてきました。
その時の感じは、会場の景色と共にいまだにありありと覚えています。
それぐらい僕にとっては衝撃でした。
え、こんなんでいいの?こんなんで感動してくれるの?こんなんでまた呼んでくれるの???
さらにその後、ジャズミュージシャンにとっては破格のギャラをもらい、懇親会で高級店に連れて行ってもらい、美味い飯といい酒を飲んで帰路についたのでした。
こうなると、人はもうダメですねw
『そっか、こんなもんでえーんやwちょろいなww』
僕の心に悪魔の感情が芽生えた瞬間でした。
とはいえ、そこから人が変わったように手を抜きだしたというわけではありません。
が、客はどうせ何もわかっていない、何も聞けていない、という考えがはっきりと芽生えたのは間違いありません。
では、これは誰のせいでしょう?
僕のせいでないとは言いませんが、やはり半分以上はそのときのお客さんのせいだと言えるでしょう。
前回の記事に書いた通り、僕らの演奏がぐだっていたのを、調子悪くて苦笑いしていたのを観客は見ていたはずです。
しかし、「今日、調子悪かったんですか?」と言う人はそのときは一人もいませんでした。
誰か一人でもそれが見えていた、あるいは見えていたんだろうなと思えるようなことを言う人がいたら、僕はそこで身を引き締めて一から出直せたでしょう。
実際、このライブではなく、そういうことを言われて背筋を正したことは何度もありました。
一昔前は、しょーもないライブをやると客席から一升瓶が飛んできたと聞きます。
だから演者側も命がけでパフォーマンスしていたんでしょう。
しかし今ではそんなこと絶対にありません。
何をやっても「よかったよ」と優しく言ってもらえます。
だから客を舐めだすミュージシャンが増えるのでしょう。
「舐める」というと大げさで、自分は絶対そんなことをしないと思っているミュージシャンも多いでしょうが、例えば何かを選択するとき『どうせどっちでも客はわかんねーよ』という気持ちで行う人が、客を舐めているミュージシャンです。
自分の好きなアーティストや、応援したいバンド(身内でも)がある人は、ライブや音源に対し、常に厳しい目で接することをおすすめします。
といっても、評論家みたいに批判するということではなく、面白かったときは「面白かった」、つまんなかったときは「つまんなかった」で十分です。
理由なんぞいりません。
わがままに思ったことを言えばいいのです(SNSでもOK)。
そして、厭きたらさっさとファンをやめましょう。
そういう態度が伝わると、ミュージシャンも常に危機感を持ってパフォーマンスし、創作することができます。
くれぐれもミュージシャンを甘やかしたらダメですよ。
すぐ調子に乗るし、勘違いするし、ダラけるし、舐めたことしはじめますから。